強くなる為の近道はない! | 空手 千葉市

空手道武現塾 健心会・代表 石塚克宏(千葉市)


効率を求めすぎる落とし穴

人の時間は有限である。そこで、つい稽古の効率を求めて、強い選手、有名選手のYouTubeを見て技術を取り入れようとする人もいるだろう。確かに、それは良い方法だし、参考にするのは非常に良い事だと思う。ただし、それを鵜呑みにして「それだけ」をやることには賛成できない。

初心者のうちは動画を見て真似するだけでも十分だが、中級者以上になると、あくまでも参考に留めておくべきだ。なぜなら、その人の身体の使い方、体型、軸の感覚などがそれぞれ違うからだ。例えば、4スタンス理論でいうところのタイプが違えば、真似しようとしてもうまくいかないだけでなく、フォームそのものを崩してしまうことがある。

また、いろいろな選手の動画を見て、あれこれ取り入れようとすると、最悪の場合ケガに繋がる危険性もある。大切なのは、自分自身の基礎をしっかり築いた上で、新しいものを少しずつ試し、必要に応じて取り入れる姿勢だ。


野球選手の例から学ぶ

少し前の一流選手、イチロー選手と松井秀喜選手を例に挙げよう。どちらも世界的に活躍した素晴らしいバッターだが、フォームは全く異なる。イチロー選手は伸び上がるようなフォーム、松井選手は身体を圧縮するようなフォームを使う。どちらが正しいのか? と聞かれれば「どちらも正しい」という答えになる。自分の身体の特性を良く理解していて、それに沿ったフォームを作り上げて、結果を出しているからだ。

しかし、両者のフォームの「良さそうな部分だけ」を抜き取って真似した場合、中途半端で訳のわからないフォームになるだろう。YouTubeで有名選手の話を次々と取り入れようとすることは、このような落とし穴にはまるリスクがあるのだ。

結局、自分のタイプや体格に合ったフォームを作るしかない。それには時間がかかるし、近道はないのだ。


下積みの大切さ

こんな話がある。料理人になろうとして一流料理店に入っても、最初は皿洗いや野菜の皮むきだけをやらされる。嫌気がさして辞めていく人も多いが、そこには必ず理由がある。

例えば、季節ごとに器が変わることに気付く。旬の野菜の皮むきで「この方向に剥けばスムーズに剥ける」と発見がある。こうした経験は、後に独立した際に必ず役立つ。店を持てば、全てのことを自分一人でこなさなければならない。下積みをミッチリやった人は、必ずその基礎が身についているため、大抵のことは自力で乗り越えられるのだ。
空手でも同じ。例えば初心者時代に面白く無い防御をミッチリと意識して稽古した者は防御は上手くなる。しかし、雑にやっていた者は上級者になっても、上達はしているが雑。組手の際、その隙があると勝敗を分ける時もある。


空手も同じ──基本の徹底

空手も全く同じだ。野球の「球拾い」にも意味があるように、空手でもまずは基本をしっかり固めることが何より大事だ。フォームが一番大事であるというのは、すべてのスポーツに共通する真理だと思う。

例えば、私が知るボクシングジムでは、入門した選手はステップしながらのジャブだけを2か月間ひたすらやらせることがある。それが当たり前だった。華やかな技は後からいくらでも覚えられるが、基礎がグラグラでは何も積み上がらない。そのくらい、基本は本当に大切なのだ。


ある程度、上達した頃に有名トレーナーから右ストレートを教えて貰った事がある。今思えば彼はA2タイプ。私と同じAタイプで共通点も同じだったのだろう。教えられた後にビックリした。「これが俺の右ストレートか?」と思うほどになったのだ。サンドバッグやミットを叩くと全く違ったのだ。ほんの少し、フォームを変えただけでこんな事もあるんだ、と思った瞬間だった。


私の修業時代

私は空手を本格的に始めた時から内弟子として道場に住み込み、稽古以外のことも多く経験した。掃除、雑用、事務作業、すべてが稽古の一部だったと思う。大変なことも多かったが、それが今の私の礎となり、道場運営にも活かされている。

強くなるための近道は本当に存在しない。あなたも焦らず、一歩一歩コツコツと積み重ねてほしい。何事も基礎と経験がすべて。結局はそれが、一番の“近道”なのだ。